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世界各地に点在するモンスターたち。 場所によって種族や生き方に違いはあれど、その殆どは夜を主に活動している。 かといって、太陽の下で動けないというわけではない。 特に魔王バラモスが現れてからというもの、その数は飛躍的に増大していた。 だが、やはり月夜の下で蠢く数には遠く及ばない。 基本的にモンスターは夜の中でこそ、生を謳歌するものなのである。 しかし、何処の世界でも例外は存在するもの。 よく晴れた、ある日の午後。 雲がないのをいい事に、太陽はいつになく神々しく輝いている。 そんな澄み切った青空を、禍々しさと優雅さを纏って飛行する影が1つ。 茶の羽毛に覆われ、鋭いくちばしを持つ鳥のようなモンスター、ガルーダである。 「……見つけた……!」 ガルーダは呪詛のような、それでいて沈んだ口調で呟きながら、鬱蒼とした森へと降りていった。 「あ、ガルーダさん、こんにちはー」 そんな彼を出迎えたのは、つぶらな瞳に似つかわしくない大仰な角と、毒々しい紫色の体毛を持つ兎型モンスター、アルミラージ。 「おう、相変わらず元気そうで何よりだ」 「はい、おかげさまで元気に過ごさせてもらってます」 低音の効いた声で普通に話すガルーダと違い、アルミラージは高い声で畏まったように話す。 その理由は力の差だけではなく、2匹が出会った遠い昔にあった。 本来はアリアハンの東地方、今は勇者によって封印を解かれたいざないの洞窟の辺りを根城とするアルミラージ。 一方、ガルーダは自由気ままに、その日の風に身を任せて空を駆ける、珍しい類のモンスター。 ある時、彼が偶然にもアリアハンの上空を通ると、地上から悲痛な叫び声が聞こえてくる。 (……ん?) 鋭い眼差しをより鋭く、まるで獲物を品定めするかのように、ガルーダが真下を睨むと、そこには傷だらけのアルミラージが右往左往していた。 更に目を凝らしてみると、周囲にはより深い傷を負った一角ウサギが数匹転がっている。 かろうじて生きている者もあれば、既に息絶えてしまった者もいる惨状。 おそらくたまたま通りかかった旅人に襲い掛かったものの、返り討ちにあってしまったのだろうと彼は推測する。 「…………」 ガルーダは無言のまま、何かに誘われるように地上へと降り立った。 しかし、アルミラージは気づかず、傷を負った身体に鞭を打ってせっせと動き回っている。 「……おい」 「…………え?」 苛立ちを隠せない口調で、ガルーダが話しかけると、アルミラージは特に怯えた様子も無く振り向いた。 「……何があった?」 「……実は……」 今の状況が信じられない、そんな表情のアルミラージだったが、流されるままに事情を説明し始める。 内容はガルーダが予想していた物とは違っていた。 まず、アルミラージと一角ウサギはそっくりな外見通り、比較的に種族としての位置づけが近い。 その為、非常に仲が良く、共に行動する事は当たり前のようになっていた。 今回もその例に洩れず、この2種族は餌になるものを森の中で探していたのである。 だが、たまたま森に迷い込んでしまった旅人とうっかり遭遇してしまった。 争うつもりの無かったアルミラージたちは、すぐに逃げ出そうと試みたが、旅人は様子を見る間もなく剣を抜いて襲い掛かって来たという。 元々、旅人はモンスターと敵対している上に、迷い込んでしまった苛立ちもあった為、そんな行動に出たのだろう。 そして、不意を突かれたアルミラージと一角ウサギの群れは、為す術も無く窮地に追い込まれてしまった。 「……ほら」 これまで相槌も打たず、ただ静聴していたガルーダはアルミラージの目の前に1枚の薬草を放り投げる。 彼は一度は足を前に踏み出そうとしたものの、すぐに首を横に振って、困惑した様子を見せた。 「どうした? そのままじゃ、お前も死ぬ事になるぞ?」 「……でも、僕だけ助かっても……」 アルミラージはこの薬草を自分以外の誰かに使おうと考えているらしい。 しかし、薬草はたった1つだけ。つまり、誰かを助ければ、他の誰も助ける事が出来ない、という事だ。 「酷い事を言うようだが、諦めろ。お前以外の誰も、薬草程度では助からない」 それは素人が見ても明らかな現実であった。 確かにまだ生きている一角ウサギもいるが、五体満足な者は一匹たりともいない――――アルミラージを除いては。 「お前も一緒に死ぬというなら、止めるつもりはない。だがな、それは単なる自己満足に過ぎないんじゃないか?」 「……え?」 腹部から血を流しながら悩むアルミラージに、ガルーダはほんの少し感情的な口調で話を続ける。 「運が良かったにせよ、お前だけは生きる事が出来る。それなら……精一杯生きてやるのが、何よりも供養に、罪滅ぼしになるんじゃないのか?」 「…………」 「……俺としても夢見が悪くなりそうだしな」 「あ…………」 その時、アルミラージはようやく気がついた。 すでにこの身は自分だけの物では無いという事に。 「だから――――生きろ」 「………………」 まだ戸惑いも罪の意識も消え去ってはいない。 だが、アルミラージは涙を流しながら、目の前の薬草を食べ、前足で器用に傷口に当てて治療を始めたのであった。 それからガルーダは、同意を得た後でアルミラージを爪で掴み、自分のよく立ち寄る場所であるアッサラーム近辺の森に移動した。 理由は話さないが、一度助けた相手が自分の与り知らぬ所で傷を負って欲しくない為だ、と彼は思っている。 一匹狼であるガルーダだが、同時にお節介焼きでもあるので、それは間違っていなかった。 とはいっても、その事を口にする事も尋ねる事も無いのだが。 「ようガルーダ。相変わらずしけたツラしてやがるな」 アルミラージが、土産の木の実を美味しそうに食べていると、背後からより低音の効いた声が森中に重苦しく響き渡る。 「暴れ猿か……お前こそ、何時見ても無駄にでかい図体だな」 挨拶にしては物騒な物言いだったが、それは決まり文句であるらしく、互いの気に障った様子は無い。 「こんにちはー」 それを良く知るアルミラージも木の実をごくりと飲み込んだ後、無邪気な声で挨拶をする。 「お、美味そうな物を食ってるな」 「良かったらどうですか?」 異なる種族の和気藹々とした会話。 この光景は何時見てもおかしい、とガルーダは苦笑いしていたが、 「ところで……例の4人組の事なんだが」 不意に真剣味を帯びた口調で話し始める。 アルミラージには誰の事を言っているのか分からないが、何度も耳にした会話だった。 「見つかったのか?」 「ああ……それもすぐ近くで、だ」 その時、ばさばさとけたたましい音と共に、近くの大木が圧し掛かってきた重みによってずしんと揺れる。 「先輩、ちわーす!」 「キャットバットか。あのな……降りる時は静かに、っていつも言ってるだろ?」 3人が見上げた先にある、丸太のような枝に逆さまで止まっていたのは、しなやかな猫の身体に蝙蝠の羽を持つモンスター、キャットバット。 来て早々ガルーダに怒られて、他のキャットバットよりも大きな身体を持つ彼は頭を下げるものの、特に反省した様子はない。 そして言った本人もその様子をさほど気にしていない事から、先に来ていた暴れ猿と同じく決まり文句なのだろう。 「次こそは気をつけますね、先輩」 「ああ……ついでにその先輩というのも止めて貰えると嬉しいんだが」 「これは譲れません」 間髪入れずに強い意思を伴った声が返ってくると、ガルーダは大げさにため息を吐いてみせる。 そもそもガルーダとキャットバットでは、体格も生活も違う事だらけだった。 だが、このキャットバットは他の仲間たちとは違う、言わば例外というものである。 まず身体の大きさ。 普通のキャットバットは、その名が示す通り、大体成人した猫と同じぐらいの大きさなのだが、彼は更に二回りほど大きかった。 しかも、まだ成長を続けている所から、その内ガルーダに追いつくのではないかとすら感じてしまう。 後、もう一つは根本的な考え方。 本来キャットバットは空を飛ぶものの、必要以上に高く飛ぼうとしない。 しかし、彼はいつ頃からか遥か上空を飛ぶガルーダに強い憧れを抱いていた。 そのせいで仲間たちからは冷たく当たられていたのだが、たまたま視線に気づいて話しかけてきた彼に感激し、先輩と尊敬するようになったのである。 一方、先ほどからアルミラージに貰った木の実を食べている暴れ猿も、やはり何処か違う。 彼らは独特の雄叫びで仲間たちとコミュニケーションをとるものの、こうして――――それも他種族と暢気に会話を交わそうとしない。 当然、こんな風に皮肉を言い合う事すらも、だ。 一匹狼であると同時にお節介焼きでもあるガルーダ。 アリアハンよりアッサラームに移り住む事になったアルミラージ。 暢気に皮肉を言い、肉食でありながら木の実を美味しそうに食べている暴れ猿。 大きな身体を持ち、空とガルーダに憧れているキャットバット。 つまり――――この4匹は数少ない例外に当たる存在なのである。 「ところで……さっきの話だが」 自分たちにあまりに相応しくない穏やかな空気に、苦笑いを浮かべていたガルーダだったが、ふと最初に話そうとした事を思い出す。 すると、同じく忘れていたらしい暴れ猿も、澄み切った青空から視線を外して、身を乗り出して問いかけた。 「噂になってるアイツらに間違いないんだな?」 こくりと、神妙な顔つきで頷くガルーダ。 「相当強いらしいんだが……今度こそ戦わねぇとな」 「だが、その為には――――作戦が必要だ」 より低くなった声で話す2匹の隣に、キャットバットがふわりと着地する。 「先輩、僕も手伝います」 向きを変えて、再び首を縦に振るガルーダの瞳に、先ほどまでの柔らかさは無い。 そんな彼らの様子を、アルミラージは不安げな様子で見つめるだけであった。 こうして何度目かの作戦会議が始まりを告げる。 「さて……問題は一体誰があいつの相手をするかという事だが……」 ガルーダは重々しく呟いた後、暴れ猿の方へと視線を投げた。 「俺があのハリセンの相手かよ!?」 しかし、それ以上何か言う前に、彼は額から流れ落ちる汗を拭おうともせず、激しく首を横に振り、 「お前が空から仕掛ければ――――ハリセンも届かないんじゃないのか!」 と、自分の方を向いているガルーダに言葉を返す。 「いや、それは……」 「理由は?」 らしくない様子で言い淀む彼に、暴れ猿は自らの命を賭して追い討ちをかけた。 「前に俺の仲間が2匹、空から襲い掛かったんだが……」 「…………」 「攻撃を避けられ、空に逃げようとした瞬間、2つの尖った靴で同時に倒された……!」 「なっ!?」 驚愕する2匹の間に緊張した空気が流れる。 「あ、あのぅ……こういう噂も聞いたんですけど……」 その時、控えめに右手を上げたキャットバットが眉間に皺を寄せてこう口にした。 「何でも地獄のハサミさんが一撃で殻を叩き割られたらしいです……!」 「あの砂漠最強と呼ばれる地獄のハサミ殿をか……!?」 今度は珍しくガルーダが言葉を失う。暴れ猿は何も言わなかったが、それは既に言葉を失くしているだけの事である。 強い人間も確かにいるが、手に持っているのは殆どが剣や斧、槍といった武器である。 いかに変わった形の物でも剣には違いないので、そうそうモンスターの間で噂になる事は無い。 だが、今話に出たハリセンと呼ばれる人間だけは、例外中の例外であった。 金色の髪にウサギの耳を乗せ、鋭い碧眼で威圧する1人の女。 薄い紙のような材質を十重二十重に折ったハリセンなる武器で、様々なモンスターを薙ぎ倒していく。 そもそもハリセンという単語も、呟いた彼女の言葉を偶然聞いていたモンスターが広めたものである。 今まで聞いた事も無い武器の上に、世界でも彼女しか扱っている所が目撃されていない。 その為、モンスターの間ではいわゆる聖剣や魔剣といった類の噂をされていた。 他にも呪文を唱えて大爆発を起こす、頭上から迫り来る凶刃をウサギの耳で受け止めるという噂もあるらしい。 「とりあえず……様子を見てくる」 一向に進まない作戦会議に痺れを切らしたのか、ガルーダは木々の隙間を抜けて大空へと羽ばたいていく。 そうして束の間の静寂が、残された3人の間で流れ始めた頃。 「ん?」 バサバサと騒がしい音が空の上から近づいてくる。 一番先に気づいたキャットバットが顔を上げると、そこにはつい先ほど飛び立ったはずのガルーダの姿。 「先輩、どうしたんですか?」 「……どうやらキメラの翼を使ったらしいな」 「へ? じゃあ、もういなくなったって事か?」 「ああ」 怪我でもして町に戻ったのか、何か別の用でも思い出したのか。 その辺りは定かではなかったが、とにかく4人の旅人の姿は見かけた場所の周囲から消え去っていた。 「ふぅ……また次の機会だな」 よほど戦いを挑みたかったのか、ガルーダは心底残念そうにため息を吐く。 「まぁまぁ……まだチャンスはありますよ」 それを励ますのは、今まで会話に参加していなかったアルミラージ。 「……そうだな」 3人は気が抜けた表情でうんうん頷いていたが、励ます彼の機嫌が良い事には気づいていない。 何となく遠くの景色を眺めるアルミラージは、ふとここに来たばかりの事を思い出す。 自分と同じ姿の仲間もおらず、右も左も分からない土地。 怯えながら暮らしていた彼に親切に接してくれたのは、他でもない目の前にいる3匹だった。 もし、彼らが戦って負けてしまえば2度とこの時間は帰ってこない。 勝てたとしても、おそらく無傷では済まないだろう。 そう思うと、不謹慎には違いないが、アルミラージには戦う理由が何処かへ行ってしまった事の方が嬉しく思えるのである。 「とりあえず……夕食の準備でもしようぜ」 「そうだな。良かったらキャットバットも一緒に食べるか?」 「あ、はい。先輩のお誘いでしたら喜んで」 いつもと変わらない、そして願わくば永遠に続いて欲しいと思ってしまう平和な光景。 「僕も手伝います!」 アルミラージは声を弾ませて、3人の下へと駆け出していくのであった。 ※後書き 2周年感謝SS第3弾です。 リクエストして下った方、ありがとうございましたー! 今回は「モンスター同士の会話」という事でしたが……何分、初の試みという事で妙に人間っぽくなってしまいました(汗) 後、全編コメディを考えていたつもりが何故かこういう方向性に(汗汗) まぁ、彼らにも彼らなりの生活があるという事で、ご容赦下さいませ(苦笑) でも、夕食のメニューって何なんでしょうねぇ……? そういえば、噂だけで1人女性が出ていますが、誰なのかはご想像にお任せします♪ ヒントは1stの遊び人姐さん(答え) 後、彼女に関する噂は、以前とあるお方に頂いたコメントを参考にさせて頂きました。ありがとうございますー! それでは読んで下さった方々、本当にありがとうございました。 目次へ
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