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「で・・・どうするんだ、アレ?」 ここはアリアハンの城下町。今日も空は限りなく青い。 困ったように呟いた銀髪の盗賊、トラッドは道具袋を見つめている。 「うーん、そうね・・・」 頭にウサギの耳をつけた女性、ナギサがそれを受けて考える素振りを見せた。 「それで、これは何?」 しばらく間があってから、普段は無口な勇者、リノがそう尋ねた。 「・・・まだ知らなくていい」 やっぱり困り顔のままのトラッドはそう返すのであった。 話は昨日に遡る。 常人よりも何かと鋭い、そういう自信がトラッドにはあった。 実際、リノとナギサよりも気配には敏感だ。ある日、そんな彼に一つの楽しみが出来た。 レーベの村の大きな岩の前で奮闘している若者がいた。 目的はわからないが、3人はそれを動かすのを手伝ったわけである。 若者は驚き、そして賞賛の声を送った。 その時、トラッドは照れながら視線を逸らすように下を見ると・・・ 先ほどまで岩があった所に、キラリと光る何かを発見する。 (あ、こんな所にもあるんだな) それは星が描かれた、小さな1枚のメダル。岩の下にあったにも関わらず、傷一つついていなかった。 彼の性格上、一度拾ったものを捨てるという事が余りない。 これまで一人で旅をしていた時も、何枚かこのメダルを拾ったので、道具袋に入れていた。 (折角だし、集めてみるか・・・) こうして、彼にメダル専用の袋が出来たわけであった。 そして今、3人は何故アリアハンにいるのかというと・・・ 「リノちゃんの故郷が見てみたいんだけど」 という何気ない一言をハリセンを力強く握り締めながらナギサが言った。 ちなみに理由は本人曰く、気まぐれらしいのだが、トラッドは一人こう考えていた。 (リノによくくっついてるし、案外好きな人の故郷が見たいとか、だったらあれだし行ってもいいか・・・) と、かなり重度な勘違いをしていたのであった。 何はともあれはしゃぐナギサ。その時、彼女の耳に何かが聞こえてくる。 方向は・・・城下町の南東にいるおじいさんからだった。 「・・・なんじゃ?」 「あ、いえ。今、何か聞こえたような気がしたもので・・・」 「? いんや、何も言っとらんぞ?」 「・・・何だろ」 どこか腑に落ちない顔で歩いていると、ちょうど武器屋から出てきた2人と目が合った。 「どうした?」 珍しいものを見たような表情でトラッドが尋ねてくる。そこで、ナギサは素直にさっきの事を話した。 「おじいさん以外には誰もいなかったのか?」 「そうね。敢えて言うなら井戸があったくらいだわ」 それは人じゃない、という言葉を飲み込んだトラッド。 「・・・井戸の中は?」 静かに2人の話を聞いていたリノが突然こう言った。 「あ、そっか」 ナギサは妙に納得し、すぐさま井戸の方へ向かう。 「・・・まさか入るつもりか?」 「え、違うの?」 どうやら彼女の中では、すでに決定事項だったらしい。 とはいうものの、トラッドも半ば入る気でいたので、特に何も言わずに後へと続くのであった。 「アリアハンの井戸ってみんなこうなってるのか?」 彼は降りて、辺りを見回すとそう呟いた。 普通一般の井戸のイメージと言うと、真っ直ぐで底に水があるぐらいであるが、 ここはちょっとした空洞になっており、その大きさは1階建ての家が2,3件入りそうな勢いであった。 その証拠に、すでに1件が当然のような雰囲気でそこに建っていた。 「もしかすると、名物かも知れないわね」 そういった事に何故か興味を持つナギサが嬉々として先へと進む。 「何処の観光客だ・・・」 トラッドは顔を右手で抑えながら、複雑な表情で後へと続くのであった。 「おじゃましま〜す」 好奇心に碧眼をキラキラと輝かせながら、家へと入っていくナギサ。 (どうやって建てたんだろ・・・) 外見は簡易な小屋なのだが、中は燭台があったり、床もしっとりと落ち着いた模様だったりと、思ったより凝った内装である。 それを見てリノはふとそう思ったのだが、いつもながら特に言葉にはしない。 「メダルの館へようこそ!」 入り口の側にいた若い男が、明るい声でそう挨拶する。 (場所が場所なら、良い印象なんだけどな) 何と言っても、ここは井戸の中にあるおかしな家である。そこで、のほほんと生活している彼らは怪しく映って仕方がない。 「・・・それでここで何を?」 爽やかな挨拶でも、リノにとってはただここがどういう場所なのか、それが気になったらしい。 「うむ、若人らしい良い質問だな。それでは私が答えよう!」 そう答えたのは奥に座っている、情熱的な瞳を持っている以外は至って普通のおじさん。 誰でも気になるのでは、と一瞬考えたトラッドであったが、そう言うと酷く落ち込みそうなので止める。 「わしは世界中の小さなメダルを集めているおじさんじゃ!」 声高らかにそこはかとなく気品と自信に満ちた声での自己紹介。 微妙に質問の答え以上のものが返ってきた気がするのは気のせいだろうか。 「・・・えっと、ナギサ」 「間違いなく、名物ね」 「いや、そうじゃなく・・・」 「じゃあ何?」 「・・・もういい」 共通点が多いナギサなら上手く対処してくれそうだと、トラッドは考えたのであったがその意図は全く伝わらない。 「・・・何か失礼な事考えてない?」 何かしら感じ取った彼女は、ハリセンを片手にそう睨むが彼は知らないフリをするだけであった。 「小さなメダル?」 そんな2人のやり取りを一切気にせず、リノはごくごく当たり前の質問をする。 どうやら、その素直さがおじさんのツボにはまったらしい。 「うむ、こう何と言うか・・・」 そしてうっとりと、それでいてキラキラした瞳で語り始めるおじさん。 「・・・そう、口の中で甘く広がるケーキのような、それでいて時折叱咤してくれる師匠のような・・・」 「・・・・・・分かりにくい例えはいいから」 トラッドは進みそうにない話をとりあえず進める努力をする。 「そうか? まぁ、ぶっちゃけて言うとこれぐらいの真ん中に星が描かれているメダルだな」 謎のおじさんは突然砕けた口調でそう言いながら、指で丸の形を作って説明する。 「いきなりそんな風に言われても・・・ん?」 その時、何かがひっかかる。そして道具袋とは違うもう1つの袋。 ―――そう、メダル袋から持っていた枚数全部を掌に出した。 「そういえば・・・もしかしてコレですか?」 「おおっ! メダルを持ってきてくれたか! どれ、おじさんが預かろう」 「ちょっと待った」 「どうした? ・・・まさか同業者か!?」 最近、集め始めていただけに即否定とはいかないトラッド。 「いや、まぁ、おじさんほど好きなわけでもないけど・・・」 「だったら頼む、譲ってくれ! おじさんの一生のお願い!!」 それは誰でも、例えモンスターであっても心を動かしそうな熱意。その様子を見たナギサは何故かメモを取っている。 (今のセリフは中々ポイントが高いわね・・・) ナギサの考えなどつゆ知らず、おじさんは畳み掛けるように言葉を発する。 「勿論タダとは言わん。枚数に応じて景品もあ」 「トラッド、全部渡しなさい」 その言葉にすぐに反応したナギサは遮るようにそう言い放った。 「・・・何で」 「トラッドが持ってても何も出てこないけど、おじさんに渡せばプレゼントがあるのよ?」 一切の反論を許さない、そんな響きの問答無用な口調。 「俺には趣味を持つ権利もないのか・・・」 「そんなの探せばいくらでもあるわよ」 元々軽く集めてみるか、と考えていただけのトラッドは諦めて持っていたメダルを全て渡す。 おじさんはすかさずそれを受け取ると、嬉々としながら数え始める。 その様子を見ると、少なからず楽しみにしていた彼は少し悔しくもあるのであった。 「ふむ、これでちょうど10枚か。では、これと・・・これをを与えよう!」 そう言って後ろの宝箱から取り出したのは棘の鞭。 「へぇ・・・ちょうどよかった、今のが少しボロボロになってたんだ」 最後まで渋っていたはずのトラッドは、真っ先にそれを受け取って素直に喜んだ。 「で、もう一つは何?」 鞭はナギサにとって興味の対象ではなかったので、自然ともう一つの方に興味が沸く。 「うむ、これだ」 おじさんの手にあるのは黒い物体。 「へ?」 「これ何?」 そう呟いたのはリノ。一瞬呆気に取られたものの、すぐに気づいたトラッドは慌ててそれを隠す。 「うむ、これはな・・・」 「説明しなくていい!」 おじさんなりの親切心を遮って、彼はそれを道具袋へ押し込める。 「良かったらそれ、私が使っちゃおうかなぁ?」 ナギサは艶のある笑みを浮かべながら彼の耳元で囁いた。 「・・・もう行くぞ」 彼は耳まで真っ赤にしながら、足早に家を出るのであった。 「またメダルを待ってるからな〜」 おじさんのそんな陽気な声を背に受けながら・・・ そんな経緯があって、3人はアリアハンの城下町で立ち尽くしているのである。 (世界中に散らばるメダル10枚で・・・) (何でガーターベルトが景品なんだよ!) 「とりあえずしまっておく」 うっかり外に出せば、誰に何を言われるか分かったもんじゃない。 「・・・そういうの好きなんだ?」 「違っ・・・あーもう」 ナギサのいつものからかう口調なのだが、彼は目が合った時にさっき囁かれた事を思い出して、また赤面する。 「相変わらずね、うふふ」 何を考えていたのかが手に取るように分かり、彼女は小さく笑うのであった。 その時、この2人を不思議な顔で見つめていたリノに気づき、彼女はふとこう思った。 (リノちゃんに・・・冒険にとても役立つとか言えば使ってくれそうだし) 当の本人は、そんな陰謀が考えられてるとは一切知る由はなかった。 「もうアリアハンはいいのか?」 「そうね、色々楽しい事もあったし」 その答えを聞いて、リノは道具袋からキメラの翼を取り出す。 そして空へと放り投げると、3人の姿は一瞬で見えなくなった。 何気ない一言から始まった、リノの妙な故郷巡りはこれで終わりを告げるのであった。 目次へ
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