「アッサラームの殺人鬼伝説」


 アッサラームの夜。4人は各々の部屋でくつろいでいた。
「はぁ・・・」
「ヤヨイちゃん、どうしたの?」
 そんな中、うっとりとした声が響き、ナギサは気になって声の主に質問する。
「これなんです」
「・・・・・・」
 胸元に大事そうに抱きかかえられているのは、何の変哲も無いモーニングスター。
 だが、赤いリボンが結んであるのは謎である。
「光沢、とげとげのバランス、鎖に残るいわくありげな錆・・・どれをとっても一級品です!」
「そ、そう・・・」
 ヤヨイが武器や防具を好きなのは周知の事実。
 しかし、ここまで細かい所となると、さすがのナギサもついていけなかった。
「あ、そうだ! 良かったらナギサさん使いません?」
「へ?」
「きっと似合いますよー」
「・・・あ、ありがとう」
 自称だが大人の女である彼女としては複雑な気持ちになる一言。
 しかし、キラキラ輝く瞳と純粋な想いを前にして、断るのは無理そうである。
「じゃあ、ちょっと使わせてもらおうかしら・・・」
 ナギサは、これはこれで面白そうね、と一瞬で思考を切り替えてそれを受け取った時、急に部屋の扉が叩かれる。
「入るぞー?」
 その言葉から一拍の間を置いて入ってきたのは、トラッドだった。
「・・・何してるんだ?」
「あ、師匠! 凄いモーニングスターを貰ったんですよ!」
 そこでナギサはようやくあの赤いリボンの意味に気付く。
 おそらく、彼女の趣味を知り抜いているであろう、元師匠からのプレゼントだという事に。
「へぇ・・・で、何でナギサが持ってるんだ?」
 その至極当然な質問に答えたのは、問題の武器を手に考え込んでいる彼女。
「ああ、似合いそうだからって・・・しばらくハリセンの代わりに使ってみようと思ったのよ」
「それもいいかもな」
 彼女は"気"を扱う事が出来る。それがこの凶悪な武器で発揮されれば、破壊力も大きく上がるのではないだろうか。
 そう考えた彼は、何ら疑問を抱く事無くそう答えた。
 それを受けたナギサも、その時までは特に何か考えていたわけではなかった。

 トラッドがある事に気付くまでは。

「・・・・・ハリセンの代わり?」
「そうよ」
「え・・・っと・・・」
 彼の頭の中で、ある景色が生々しく浮かぶ。
 それは何かの拍子で、ナギサが笑顔のままモーニングスターを・・・

 ――――自分の頭に振り下ろすという、何とも血生臭い光景だった。

「・・・ちょっと待てー!」
「何よ、大声なんか出して?」
「俺を殺すつもりか!?」
 そう叫ぶトラッドは血の匂いまで漂っているような錯覚に陥っていた。
 しかし、不幸にもその一言でナギサはようやく彼の考えている事を察した。
「・・・そういう事ね」
「え?」
「言わなきゃ思いつかなかったのに・・・」
「・・・・・・え?」
 彼の本能が危険を訴え、噴出した汗は瞬時に凍りつく――――ような感覚。
「それじゃあ、望み通りにしてあげるわね」
「・・・!!!!」
 トラッドの想像は、皮肉にも彼自身の言葉をきっかけに現実になろうとしていた。
 すぐさま部屋から逃げ出す彼と、微笑みながら追いかける彼女。
 原因を作ったヤヨイは、呆然としながらも、
「・・・まぁ、いつもの事ですし大丈夫ですよね」
 と呟いて、再びのんびりし始めるのであった。


 その夜、アッサラームの町中に彼の悲痛な叫び声が響き渡ったのは言うまでも無い。


 翌朝『殺人鬼現る!?』という噂で持ち切りになった事は、幸いにも4人の耳には届かず・・・
 新聞でそれを見たヤヨイの元師匠は、
「物騒な事もあるもんだ・・・」
 と、まさか自分の渡した武器が原因とは夢にも思わず、額に滲む汗を拭うのであった。




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