「目は口ほどに恋を告ぐ」


 丸くて円くて、角がなく。
 過度なまでに存在感を主張する、真円の満月。
 夜風に身を揺らし。
 夜気に身を漂わし。
 夜月に身を焦がす――は、自然のありとあらゆる"緑"を携える草原。

 その只中に、人影が二つ――リノとトラッドである。

 二人の間に位置する空白は、ちょうど掌一つ分。
 さすがに仲が悪いというほどではないが、仲睦まじいと表現するにはまだよそよそしい。そんな距離だった――が、よくよく目を凝らしてみると。
 密やかにささやかに。まるで大地に根付く草花に隠すように。
 彼女の左掌と彼の右掌は、きゅっ、と指と指を絡め合っている。
 その様子は、どこをどう見ても。
 そういった事に興味のない子供が目の当たりにしても。
 はたまた、主観においても客観においても。
 二人から流れる雰囲気は、唯一無二に"特別"だった。

 やがて、リノの影が微かに動く。
 相変わらず言葉が交わされる気配は、ない。
 だが、気づいたトラッドの影は応えるように隣を向いた直後。
 正確には彼女が、小さく俯いた刹那。

 二つの影は――緩やかに重なった。

 緊張に身を強張らせていたリノが、トラッドに寄り添ったのである。
 その時、ほんの一瞬だけ。
 彼は柔らかく地に着いた掌たちを見て、少しだけ首を傾げる。
 驚き、というよりは、惑い、といったぎこちなさで。
 とはいえ、それも束の間。
 すぐさま先刻の空気を纏い直した二人は、互いの温もりに身と心を委ね合った。
 やはり――何一つの言葉もなく。

 それから、どれほどの時が経ったのだろうか。

 小さな差違はあれど、一つとなった影に大きな差違はなく。
 加えて、未だに声も発されていない――が、必要なかったのだろう。
 想いを伝える上で十分とは言えない言葉よりも、二人にとっては十全と言える沈黙が。
 此処には確かにある――ただ、それだけの事なのだから。
 しかし、変化は唐突に訪れる。
 時折身じろぐだけだったリノが、ふと顔を上げたのである。
 するとトラッドは、再び応えるように見つめ返す――だけでなく。
 初めて掌を、何処か名残惜しそうに解き、彼女の右肩を抱き寄せた。
 どうやら先ほどの戸惑った視線は、この行動を考えての事だったようだ。
 兎にも角にも、その後。
 どちらからともなく、静かに瞳を閉じ合った二人は。
 どちらからともなく、ゆっくりと顔を近づけ。

 そして――――



※後書き
 以前に日記で書いた台詞なしSSです。
 そのまま眠らせておくのもアレなので、そのままアップしました。

 ちなみに今作、私が夢で見た内容を文章にした結果なのですが……
 ラストが肝心な所(?)で終わっているのは、ちょうどここで目が覚めたからです(笑)



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