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それは夕食時の事であった。 「ねぇねぇ、これ似合う?」 ナギサは席に着くなり嬉しそうな様子でそう聞いてきた。 「わー、可愛いですねー」 早速、気付いたらしいヤヨイは素直な感想を述べる。 「・・・何が?」 しかし、リノとトラッドには何の事かさっぱり分からなかった。 「師匠、耳ですよ」 「・・・あ」 よく見ると、ナギサの両耳に青いスライムが付いている。 「相変わらず鈍いわね」 「いや・・・多分、どっちも見慣れてるからじゃないか?」 そして、間髪入れず襲い掛かったのは、馴染みのハリセン。 「リノ・・・俺が悪いのか?」 急に話を振られたリノは、とりあえず首を縦に振るのであった。 時間がおおむね平和に過ぎて、夜も更けた頃。 「さて、と・・・もう寝るかな」 ようやく準備を終えたトラッドは欠伸をしてからベッドに向かう。 その時、何の前触れも無くドアが勢いよく開いた。 「師匠!」 「・・・ヤヨイ?」 そこには、彼の弟子の姿があった。 「どうした? 顔が真っ赤だけど」 「その・・・えっと・・・」 慌てて来た割には、言葉を濁す彼女。 「・・・何かあったのか?」 「それだけは間違いないです」 しかし、どう説明すればいいのかだけ分からない。 「ととと、とにかく師匠! お願いします!」 「いや、そう言われても事情が分からないと――――」 「・・・入ってもいい?」 開きっぱなしのドアから、震える声がした。しかも、それは初めて聞く声ではなかった。 「ナギサ、か?」 「うん・・・」 消え入りそうな声で返事をすると、彼女は部屋に足を踏み入れる。 「・・・・・・」 そして同時にトラッドは、あまりにそぐわない物をトパーズ色の瞳に映してしまった。 「・・・・・・・・・・ぬいぐるみ、だよな?」 寝間着に着替えた彼女は何故か『猫のぬいぐるみ』を抱きかかえていた。 しかも人一人がすっぽり入りそうな、かなり大きいものだ。 「あのね・・・」 その問いに答えようとするナギサの瞳はどこか潤んでいる。 トラッドは言葉の続きを待った――――得体の知れない恐怖と共に。 「一人で寝るのが寂しいの・・・」 「・・・・へ?」 間の抜けた声。しかし、それを気にせず彼女はぽつりと呟いた。 「だから・・・添い寝して欲しいんだけど・・・ダメ?」 「・・・!?」 トラッドは有り得ないといった表情で、腕にしがみついているヤヨイを見る。 「師匠・・・どうしましょうか?」 「・・・・・そうだな」 解決する事は簡単である。要は一緒に寝てあげればいいだけなのだから。 「ヤヨイが添い寝するというのは・・・」 「・・・師匠、酷いです」 「だよな・・・」 2人とも考えている事は同じらしい。つまり、怖いのである。 「ナギサ」 「何・・・?」 相変わらず声は弱々しい。 「どうしたんだ?」 「分からないの・・・」 本人も理由は分からないようで、首を頼りなく横に振る。 それはそれで可愛く見えない事も無いのだが、余りの豹変振りにどうしても恐怖が先走ってしまう。 「とりあえず・・・今日は一人で寝」 「いや!」 強い意思を秘めた言葉。どうあっても誰かと眠りたいらしい。 「そうはいっても・・・その・・・」 「・・・私の事、嫌いなの?」 「へ? 別にそういうわけじゃ・・・」 「じゃあ、一緒に――――」 「いや、だからそれは・・・・!」 「・・・うっ」 どうあっても、うん、と言わないトラッドに、ナギサは泣き出してしまった。 「・・・確かにこれは説明に困るな」 「分かって頂けて何よりです・・・」 トラッドとヤヨイが、唸り声を上げながら悩んでいると、 「・・・そうだ!」 泣いていたナギサが、元気な声でそう言った。 「いい方法でも思いついたのか?」 「うんっ」 「何ですか?」 ようやく終わる、そう思ったヤヨイの喜びは声に表れていた。 しかし、彼女の答えは2人に更なる試練を与える。 「コレで気絶させればいいのよね?」 「・・・・・・」 「・・・・・・」 呆然となる2人。しかし、それに構わずナギサはハリセンを握り締めて間合いを詰める。 「大丈夫、一瞬だから」 彼女は微笑みながら、腕を大きく掲げた。 咄嗟に反応したトラッドはヤヨイの腕を引いて、その場から神速で離れる。 刹那、鳴り響く乾いた音。 「・・・どうして避けるの?」 「当たり前だ・・・」 「じゃあ――――当たるまで叩くから」 その言葉に2人の背筋が凍りつく。しかし、1秒も経たない内に我に戻った彼は、真剣な表情でこう言った。 「逃げるぞ・・・!」 「・・・はい!」 それから、命を賭けた追いかけっこは朝まで続いた。 ちなみにリノは疲れていたせいか、この騒動に全く気付く事無く、一人平和に身体を休めるのであった。 後日、スライムピアスには孤独を感じさせる呪文が施されているというのを知った2人は、 ナギサが眠っている間にそれを隠して、無事解決する事に成功したのであった。 目次へ
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