「ヤヨイの弱点」


 ある晴れた日のこと。


「師匠! 向こうにこうもりみたいなネコさんが2匹います!」
「……キャットバットか」
 トラッドはヤヨイの可愛らしい表現に苦笑いしながらブーメランを右手に取った。
 そして気付かれると同時に放り投げる。

 ……! …………!

 一撃でモンスターはあっけなく倒された。
「さすが師匠ですー!」
「まぁ、あれぐらいは……」
 一心に注がれる尊敬の眼差しに、彼は照れながらブーメランを背中にしまうのだった。


 それから数時間後。


「ししょー! あっちに毒っぽいキノコが……えっと、沢山います!」
「マージマタンゴだな」
 トラッドの頭に紫色の身体に悪そうなキノコの姿が浮かぶ。
 そして集団で襲ってくる事が多い、というのを思い出した。
(沢山、か)
 彼は左手にブーメランと、空いた右手にはナイフを2本持つ。
 これなら6匹ぐらいまでは仕留める事が出来るだろう。
(もし無理でもリノとナギサ、それにラザもいるし)
 そう思いながらトラッドが少しだけ振り向くと、その3人はこくりと頷いた。
 その仕草に自分の考えが伝わっていると確信すると、彼はヤヨイの示した場所に躍り出た。

 だが、そこにいたのは『6匹』のマージマタンゴ。

「………まぁいいか」
 沢山、という程の数ではない。その事に拍子抜けしたが、トラッドは迷う事無くブーメランを投げた。
 マージマタンゴは群れる習性がある。
 だから少なくとも8匹以上はいると踏んで、ナイフの用意もしていた。
 しかし、6匹というのは、このモンスターにしては多くなかったので――――彼のブーメランとナイフであっという間に倒された。


 そして更に数時間が過ぎた頃だった。


「何だか外で食べるのって久しぶりね」
「……でも、食事を作るのは俺なんだな」
 5人は適当な場所で休んでいた。次の目的地までの距離を考えれば野宿になるだろう。
「だって面倒だし」
 それから彼女はリノに耳打ちをする。
「そう思うでしょ?」
「まぁ……うん」
「何が?」
 トラッドは気になって問いかけると、ナギサは得意げに笑ってこう言った。
「リノちゃんはトラッドの料理が一番好きなんだって」
「……そっか」
 答えながら彼はリノの方を見ると、彼女は顔を逸らしながらこくりと頷いた。
「さてと……とりあえず作るかな」
 少し嬉しそうなのは言うまでもない。
(弱点を知り尽くされてるな……)
 ラザは同情するような目でトラッドを見る。
 ちなみに弱点というのはリノである。最もナギサだけではなく、当の本人たち以外は知っている事なのだが。

 そして夕食時、トラッドはふと今日の事を思い出した。
「ヤヨイ」
「ふぁんふぇすふぁ?」
 口にパンを詰め込んだまま、呼ばれたヤヨイはよく分からない発音で返事をする。
 何て言ったか少し考えて、トラッドは懐からナイフを5本取り出した。

「これは何本だ?」

「え? 5本ですよね?」
 その答えに彼は頷いて、更に3本ナイフを取り出す。
「……じゃあこれは?」
「え、っと……」
 急に反応が悪くなり、右手の指で数を数え始めるヤヨイ。
 トラッドは頭をかきながら答えを待った。

「…………沢山です」

(やっぱり……)

 どうやらヤヨイは自分の指以上の数は数えられないらしい。
 今まで必要がなかった為、教わる機会がなかったのだろう。
 その割にお金の計算が普通に出来るのは謎である。

「あの……師匠」
 ヤヨイはしっかり自覚しているようで、恥ずかしそうに頬を染めている。

「今度教えようか?」

「…………お願いします」


 珍しく師匠らしいと自分で思いながらも、どこか複雑な心境のトラッドであった。



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