20章・最終話「好き、という感情の種類」


※あらすじ

 オリビアの岬を越え、小島に降り立ったサイモンの魂と出会ったリノとトラッドは、道を拓くというガイアの剣と、息子ティルクへの遺言を受け取った。
 それによって、二人はサマンオサへ向かう事にしたのだが、その時――ラザは、ダーマによって欲しい、と言った。
 表向きの理由は、ナギサの船酔いを治す薬があれば、との事。
 しかし、本当の理由はナギサに対して"何らかの回答"を出したい、という願いだった。
 そこでリノは、二人にとって良い時間を作るため、すぐにティルクと会えるとは限らないから数日はサマンオサに留まるかもしれない、と告げ、トラッドにもようやく理由を話し、すぐに出会えてもしばらく留まろう、と決めた。
 こうして二人は、しばらくサマンオサの復興を手伝う事にした。

 一方、覚悟を決めたラザはナギサと話をしようと試みるが、二人はすれ違ってばかり。事態が好転する兆しは一向に見えない。
 そうして途方に暮れ、最悪の回答を出そうとした彼だったが――二日目の夜。
 ラザはアーニーに呼び出される。
 二人に何かあった事を察した彼女は、あることを告げる決意をしたのであった。


本編


 夜に生きる者たち以外は寝静まった夜。ラザはダーマを取り囲む外壁の東側で、鞘に納まった剣を片手に忙しなく辺りを窺っていた。魔物に対しての警戒である。もっともダーマ周辺、その一帯には結界が張られているため、本来なら必要のない行為のはずなのだが、それは癖。旅を続ける内に身に付いたものだった。
 だが、他にも理由はある。
 ただ単に落ち着かないだけ、という理由が。
 何故なら、彼は決意をしてしまった。
 ナギサのためなら自分はどのような傷を負っても構わない――そんな悲壮な決意を。
 苦しいのは、一瞬。
 後はきっと、時間が解決してくれる。
 ゆえに決意は揺らがない、と考えていた――その時。
「……ラザくん」
 暗がりから声が響いた。
 聞き慣れた音色、耳馴染んだ呼び方。誰であるかは言うまでもない。
 アーニーである。
 そもそも彼は、話がある、と彼女に呼び出されて此処にいるのだから、改めて確認するまでもなかった。
「夜遅くに、ごめんね」
「……いや」
 ラザの答えは、普段と違って随分素っ気ない。
「でも……どうしても話したいことがあったから」
「…………」
 が、無理もない。
 昔からの親友と最後にどんな言葉を交わすべきなのか、などと緊張していたのだから。
 アーニーは彼の隣に座り込む。そして、ぽんぽん、と地面を軽くて叩いた。少し長くなるから座って、と言いたいのだろう。
「……話というのは?」
 それを察したラザは、彼女の方を見ないまま地に腰を下ろした。
 不意に風が吹き、辺りの草花と、二色の髪が揺れる。
 瞳が、揺れる。
 心も、揺れる。
 不規則に、不安定に――二人は何かに揺られている。
 束の間の、静寂。
 数秒の後、吐息。
 不可解な、居心地が良いのかも悪いのかも不明瞭な空間。
「……ナギサちゃんと、何か、あった?」
 先に唇を開いたのは、アーニー。
 彼女は何かを察しているだろうと予測はしていたが、それは彼にとって一番避けたい話題だった。
「…………」
 ゆえに、沈黙。
 答えない。応えない。その資格もなければ、その術も知らない。
 それゆえの、沈黙。
「……ラザくん」
 しかし、アーニーが名前を呼び、
「離れよう、って考えてない?」
 こう問いかけた直後――これまで真っ直ぐ前を見据えていたラザは、弾かれたように向き直った。
 本当にそう考えていたから、だ。
 何か答えなければ、それを悟らせないための言葉を紡がなければいけない。
 彼は必死に考える。
 動揺と焦燥に埋め尽くされ、自身ではままならない心で考えようとした――直後。
「もし本当にそんなことを考えてるんだったら……怒るから」
 アーニーはそう呟いた。今まで耳にした事もないような、低い、既に十二分な怒気に充ち満ちた声で。
 ラザはとうに失っていた言葉を、更に失くした。
 だが、ふっ、と雰囲気を和らげた彼女は言う。
「……ダメだよ。そんなこと」
 諭すように。
「ラザくんがそんなことしたら……ナギサちゃん、きっと立ち直れなくなる……それに」
 優しく。静かに。
 そして、突きつける。

「ナギサちゃんのこと――……好き、なんだよね」
「っ……!!」
「ずっと……ずっと好きなんだよね」
「…………」
「だったら……やっぱりダメだよ」

 心の一番柔らかい場所に息づいていた感情を、はっきりとした言葉で突きつけた。
 瞬間、ラザは止まっていた呼吸の仕方を思い出し、紡ぐ。
「……ナギサのためだ」
「ナギサちゃんの、ため?」
 ぽつぽつり、と。
 先刻まで忘れていた"言葉"をカタチにして、頷く。
 だが、ふと口を噤んだアーニーは、迷いも露わに何度か両手を中空に彷徨わせた後。
「……ラザ、くん」
「え?」
 ぎゅっ、と――彼の頭を胸元に抱き寄せた。
 優しい温もり。そう思ったのも、束の間。
「な、なにを……」
 彼はすぐさま遠ざかろうとする。そして、それは容易く実行されるはずだった。
 しかし、アーニーはより一層回した腕に力を込めると、
「昔、私が落ち込んでた時……よくこうしてくれたよね」
 遠い目で、幽かに頬を上気させつつも、優しく話し始めた。
「覚えてない?」
「……覚えてる」
「あの時ね、凄く嬉しかったし……凄く落ち着けた」
「そう、か」
「だから、ね。今度は私がそうしたい、って……ラザくんの力になりたいって思ったの」
「…………」
「随分時間が掛かっちゃったけど」
「……アーニー」
「ラザくん、は……その、お、落ち着かない?」
 その言葉にラザは身体の力を抜き、心を委ね、察したアーニーも緩やかに拘束を緩める。
 酷く優しくて、懐かしい時間。
「…………いや」
 やがて、感想。
 それを受けたアーニーは、話を再開させる。
「お願い、ラザくん」
「……」
「ナギサちゃんのことを想うなら……向かい合って」
「だが――」
「今すぐ気持ちを伝えて、なんて言わない。でも、ちゃんと向かい合って」
 途中、彼女はラザの言葉を遮ると、
「ナギサちゃんも……ラザくんのことを嫌ってるわけじゃないと思うから」
 最後にこう告げた。



 それから数分が過ぎ、ラザの首肯をキッカケに、どちらともなく身体を遠ざけた後。
「……夜遅くにごめんね」
 アーニーは呼び出した事に対し、改めて謝罪をした。
「こちらこそすまない。それに……ありがとう」
 しかし、親友を思う彼女に非はなく、むしろ感謝したい気持ちで一杯だった。
 不甲斐ない自分に、"彼女"と向き合う勇気をくれたのだから。
 だが、決意を秘めた表情でラザが立ち上がった刹那。
「あ、ラザくん!」
 アーニーは鋭く制止の声を掛ける。
「えっと、その……」
 にも拘わらず、彼女は困惑した面持ちで、すぐに続けようとしない。
「どうかしたのか?」
 不思議に思ったラザは、当然のごとく問いかける。すると彼女は、普段ののんびりとした印象とは異なる俊敏な動作で立ち上がり、さっ、と背中を向けたかと思えば、
「今日は、もう遅いし……ナ、ナギサちゃんも寝てると思うから、話をするのは明日の方がいいと思うよ?」
 こんな言葉を呟いた。どうやら彼の行動はお見通しだったらしい。
 ただ、それにしては何処か歯切れが悪い。
「……そうだな」
 とはいえ、彼女の言う事ももっともだったので、疑問は解消されなくとも、ラザは素直に従う事にした。
「……おやすみ。今日は、ありがとう」
「う、うん、おやすみ」
 そうしてアーニーは彼を見送った――のだが。
(……うん)
 ラザが部屋に入るのをこっそり見届けた後、そのままある場所へ向かった。
 程なくして辿り着いたのは――ナギサの泊まっている部屋。
 彼だけではなく、"彼女"とも話をする必要があると思っていたからだった。
 こん、こん。
 まずノックを二回。返事はない。
「ナギサちゃん?」
 続けて、呼びかけ。まだ返事はない。
 こんここん。
 再びノックを二回。今度は少しぎこちなく、そして返事はやはりない。
 もう寝てしまったのだろうか。それとも気づかないフリをしているのか。
 中の様子を確認すべく、アーニーはノブに手を伸ばした。わずかな金属音が鳴るものの、扉は開かない。鍵が掛かっているようだった。
 アーニーはほんの一秒ほど逡巡したが、
「アバカム」
 最終的には極めて珍しい強攻策に出た。
 その時の魔力の流れや、先ほどよりも響く金属音で、ナギサも気づいたに違いない。
 だが、アーニーは構わず中へ入ると、
「……ナギサちゃん」
 彼女の名前を呼びながら、手近にあった椅子を引き寄せ、そこに座った。
 未だ返事はない。そもそも、この二日間で声を聞いた記憶が――あの無条件に心が弾む澄んだ音色を耳にした覚えが、ない。
 したがって、此処でこうしていても彼女が返事をする可能性は低かった。
 が、それでも――それでも離れるつもりはなかった。
 夜が深まっても、今はまだ活動している大半の生物が寝静まっても、当たり前の顔で朝が来ても。
 ナギサと話をするまでは、ここにいようと思っていた。
 アーニーは強くそう想っていたのだが、
「……なに?」
 音色は普段と異なる冷たさを帯びており、相変わらず背を向けたままではあったが、静寂の終焉は思いの外早く、呆気なく訪れた。きっと明日の事を考えたナギサは、彼女の身体を気遣ってくれたのだろう。それが、例え今がどんな状況であっても、やはり嬉しかった。
 かといって、喜んでばかりもいられない。
「ラザくんと……何かあった?」
 間髪入れずに気持ちを切り替えたアーニーは、彼の時と同じ内容の言葉で話を切り出した。
「べつに」
 しかし、彼女の返答は、ラザとは違う素っ気なさを纏った否定。話す気はない、という意志が明確に伝わってくる。
「じゃあ、どうして元気がないの?」
「体調が悪いだけよ」
 取り付く島もない。
「……本当にそれだけ?」
「ええ」
 ならどうすればいいのだろう、とアーニーは考える――が。
「じゃあ、ナギサちゃん……」
 その答えはすぐに見つかり、
「……どうして"ラザくんも"元気がないの?」
「っ……!」
 伴って、上半身を起こしつつ振り返ったナギサは、仄暗くはあっても、初めて感情的な色を露わにした。
 だが、それは一瞬。
 背を向けなかったものの、彼女はすぐに俯き、隠す。取り乱した表情も、澱んだ碧眼に滲む揺らぎも、何もかもを隠そうとして顔を伏せる。
「……って」
「え?」
 そして、紡がれるのは、
「お願いだから……出て、行って」
 アーニーの知らない弱々しい拒絶。
 痛い。痛い痛い。いたいいたいいたいいたいいたい――そんな痛いだけの、傷を抉る事だけに特化した言葉。
「……出て行かない」
 けれど、それ以上に。
「ナギサちゃんと話をするまで……出て行かない」
 此処に。
 彼女の側に。
 大切な親友の傍らに、居たい。
「だから――」
 だから、アーニーは。
「だからこそ……聞くね」
 だからこそ、尋ねる。

「ナギサちゃんは、ラザくんのこと――……嫌い?」

 二人の関係がよそよそしくなった時から、一度も発する事のなかった問いを。
 怖くない、と言えば嘘になる。
 怖い。どうしようもなく、怖い。
 最悪に繋がるかもしれない言葉が――怖くないわけが、ない。
 それでも、いつかは尋ねようと思っていた。その"いつか"が"今"とも思った。
 また彼女が、ナギサが"彼"のことを心底嫌っているようには見えなかった。
 過去、そして現在。
 二人に何があったのかは分からない。想像もつかない。
 話せないような内容であるなら、いっそのこと聞かなくてもいい。
 だとしても、アーニーは思う。
 叶うなら、良い結末を。
 叶わなくても、優しい結末を。
 大切な二人だからこそ迎えて欲しい、と想わずにはいられなかった。
「…………」
 返事はない。
 部屋の中には、少し乱れた二つの呼吸音だけが淡々と反響するだけだ。
 だが、アーニーも再び問いかけようとはしない。
 改めて問わなくても、彼女が言葉を探している事は明らかなのだから、その必要はない。
 だから、待つ。
 待ち、続ける。  ただひたすらに、彼女が本心を紡ぐその瞬間を待ち焦がれる。

 沈黙。静寂。
 最低限の音だけが身体に触れ、浸食し、果ては心に訥々と染み込んでくる、時間。
 長いのかも短いのかも分からず、規則正しい時計の針すらもアテにならない。
 不鮮明。不明瞭。不可解。不条理。
 そんな時間――が、気づけば過ぎ去った頃。

「……ラザのこと」
 ぽつり、と。
「ラザのこと、は……嫌い――」
 ナギサは儚げな音色で、告げた。

「――じゃ、ない」

 一番望んでいた言葉を。
 アーニーは込み上げてくる嬉しさを抑え、更に質問する。
「じゃあ、ラザくんのこと……好き?」
 その問いに対してナギサは、一瞬だけ目を見開き、小さく首を横に振った後、
「それは……わからない」
 今度はどちらでもない答えを返した。
 だが、それで十分だった。
「でも、嫌いじゃないんだよね?」
「……うん」
「じゃあ、やっぱり好きなんだよ」
「そ、そんなの……わからない、じゃない」
 ゆえにアーニーは、確信を持って続け、
「ううん、ナギサちゃんはラザくんのことが好き――ただ、ね……どんな風に"好き"なのか分からないだけで」
「……え?」
 今の今まで真っ赤な顔で否定していたナギサは、その言葉で呆然となった。
「仲間として好きなのか、親友として好きなのか……それとも男の人として"好き"なのか、それが分からないだけなの」
「あっ……」
 好き、という言葉。
 そんなたった二文字の言の葉は文字数以上の意味を持っており、ナギサも頭ではなく心で理解し、それを無意識に使い分けている。
 だから、気づかない。
 無意識であるがゆえに、気づけない。
 当たり前の事、当たり前の感情であるはずなのに、こうして言葉にされるまで気づけなかった。
「……でもね、それはすぐに決めなきゃいけないことじゃないと思う」
「…………」
「それにどういう"好き"でも、ナギサちゃんがラザくんを"好き"なことには変わりないんだから……あんまり心配させちゃダメだよ?」
「……アーニー」
「ラザくんもナギサちゃんのこと……"好き"なんだから、ねっ?」
 過去に何があり、現在に何があったとしても、蓋を開けてみれば簡単な事。
 好きなのか。
 嫌いなのか。
 ただ、それだけの――それだけに過ぎない話。
 複雑にしていたのは、他ならぬ自分。
「……ラザは?」
「え? あ、もう休んでると思――って、ナギサちゃん!?」
 そう気づいた瞬間、ベッドから飛び起きたナギサは、アーニーの声も聞かず、
「ラザのところに行ってくる!」
 今の気持ちを力強く口にして、駆け出し、扉を蹴り開くや否や、早くも部屋を後にしていた。
「もう……ナギサちゃんってば」
 結果、部屋に取り残されたアーニーは、至極真っ当に呆れた声を落とす――ものの。
「……でも、ナギサちゃんから逢いにいくのなら、いいのかな」
 既に見えなくなった彼女を、心からの笑顔で見送るのだった。



 一方、その頃。
 アーニーのおかげで気を取り直し、明日の朝はナギサにどんな言葉を告げようと考えつつも、襲い来る睡魔にうとうとと船を漕ぎ出していたラザだったが。
「……ん?」
 夜に相応しくない騒々しさで迫る足音と。
 数秒後に、一層けたたましく響いた扉の開く音と。
「ラザ……!」
 元気な声と。
 愛おしい彼女の姿。
 それらを瞬時に理解し、
「ナギ、サ……?」
 思わず名前を呼んでしまった彼の微睡んだ意識は、瞬く間に覚醒に至った。
「ど、どうかした、のか?」
「あ、あの……えっと、ラ……ラザ、に……そ、の」
 だが、肩で息をしている彼女は、何かを言おうとしている事は分かるのだが、中々それができないようだった。
「とりあえず扉を閉めてくれ……それと話すのは落ち着いてからでいいからな」
 そこでふと平静さを取り戻した彼は、ひとまずは気になった点を柔らかに告げ、ベッドから降りた。
 ナギサは扉を閉めた後、しばらくは深呼吸に時間を費やす。
 互いが互いに状況の整理に追われているため、幸いにも気まずさはなかったが、何処か間の抜けた空白が過ぎてゆく。
 それから、おおよそ二分後。
「すー……はー……」
「落ち着いたか?」
「すー……はー…………うん」
「それで何かあったのか?」
「え?」
 ナギサは勢いよく殴り込んできたにも拘わらず、ラザの問いに目を丸くする。
「……なにかあったから来たんじゃないのか?」
「えー……えっと、まぁ、うん」
 彼と話をしようとは思ったのは良いが、何をどう話すのかについては全く考えていなかったのだ。感情に振り回された結果である。
 しかし、冷静になって考えてみたところで、言葉は何も浮かばず、取っ掛かりさえ脳裏を掠めもしない。
「そそ、そういうラザは……その、何か、ない、の?」
「……え? あ、いや……まぁ、ないこともない、が」
 とはいえ、それはラザも一緒だった。
 最初にナギサが元気に飛び込んできた瞬間こそ、話ができるかもしれない、と喜んだ彼ではあったが、それも束の間。自分が何を話すべきなのかはまだ考えている途中だと、すぐに気がついたのである。だが、当の本人を目の前にして考えられるほど、彼もまた気持ちが整理できていたわけではない。
「……その、何と言うか」
「えとあの……うん」
 結果、沈黙はすぐさま、事も無げに訪れる――が、その数分後。
「ラ、ラザ!」
 唐突に彼の名前を呼んだナギサは、
「あ、あの……あの! ……え、っと……あっち向いてて、くれる?」
 つっかえつっかえになりながらも、何とか言葉をカタチにし、
「え?」
「いいから!」
「あ、ああ……?」
 ラザも戸惑いはあったが、彼女の言う通りにする。
「すーはー……すー……はー……」
 次に彼女は、何度目かになる深呼吸をしたかと思えば、不意に。

 彼の背中に、とん――と、心身を預けた。

「ナギ――……えっ」
 そして、ぶらりと力なく垂れる彼の掌に、そっ、と自分の掌を柔らかく重ねると、
「……ごめん」
 ぽつり、と謝罪をし、
「で、でも……!」
 一度は何かを言いかけながらも、一旦は息を飲んだ後、
「き、きらいなわけじゃないから!」
「……え?」

「だからラザ、が……ラザのことが、嫌いなわけじゃ、ない……から」

 ずっと――ずっと、伝えようと思っていた気持ちを、途切れ途切れにでもようやく口にした。
 理解が、追いつかない。
 それでも響きが温かい事は確かで、その心地良さに身を委ねている内に、やがて理解は追いつき、
「……そうか」
 ラザはやっとの思いで、その一言を呟く。
 だから、だろうか。
「ナギサ」
「え……あっ」
 彼女の白い掌を握り締めてしまった彼は、
「……少しは期待しても――あ、いや……ありがとう」
 思わず大胆な言葉を口走りかけ、すぐさま言い直す。
 しかし、幸か不幸か前半部分は彼女に聞こえなかったらしく、
「だから、ね……ラザ――」
 それゆえに後半部分だけを受け取った彼女は、

「――……これからも、よろしくね」

 最後に、こう告げた。



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