第63話 「思わぬ再会が生んだ微かな希望」


 太陽がちょうど真上から町を照らす中、トラッドは昼食で人通りの少なくなった路を走っていた。
「……いた」
 それからしばらく後、息が上がってきた頃に彼は探していた人物の姿を発見する。
 トパーズ色の瞳が見据える遥か前方にいるのは、沈んだ顔でルイーダの酒場を出てくるナギサ。
「トラッド?」
 その時、呼吸を整えようとしていた彼は背後から忍び寄る気配に気づかず、声を掛けられてハッと振り向く。
「……ラザ」
 目の前に立っていたのは、自分と同じく肩で息をしている、赤い髪と瞳を持つ彼だった。
「あ……」
「どうした?」
 先ほどの会話の後のせいか、トラッドは戸惑った表情を浮かべ、何かを話そうと口をもごもごさせている。
 彼とは対照的にラザは単純に来てくれた事が嬉しいのか、穏やかに瞳を揺らしながら、ただ言葉を待っていた。
「あの――――」
「何しにきたの?」
 しかし、トラッドが何かを口にしようとした瞬間、再び背後から冷ややかな声が突き刺さる。
 弾かれたように振り向いた先にいたのは、同じく2人の姿を見つけて駆け寄ってきたらしいナギサ。
 怒りと何処か憂いを帯びた碧眼で、彼を一心に見据えている。
「え……っと……」
 頭の中では紡ぐべき言葉は決まっている。だが、肝心の声となって紡ぐ事が出来ない。
 それを察したラザは不穏な空気の中、平静を装った顔で彼女に尋ねる。
「どうだった?」
「え? あ、うん……酒場で尋ねてみたけど、やっぱり誰も見てなかったわ」
「そうか……こっちも同じだ」
 満足のいかない結果に流れる気まずい沈黙。
 その間隙を縫うように、今まで俯いていたトラッドが喉を締め付けるような声を出しながら話しかけようとした。
「あ、あの……」
 だが、すぐさまナギサが反応して、彼を指差そうとしたが、いつの間にか隣にいたラザの手で止められる。
 トラッドはわずかに頭を下げて、感謝の意を示すとぎこちない口調でこう呟いた。

「リノが……何処へ行ったのか予想がついた」

「……え?」
 そこで初めて彼女の表情が怒り以外の感情を滲ませる。
「ただ、そこへ辿り着く為の方法まではまだ……だから、一度部屋に戻ってくれないか?」
 ナギサとラザは互いに顔を見合わせると、ほぼ同時にトラッドの方を向いて頷いた。



「リノの事……走りながら、ずっと考えてた……」
 自分たちの泊まっていた部屋を目指す3人。
 先頭を歩くトラッドは弱々しく首を横に動かし、後ろを歩いているナギサとラザの方を見ずに呟く。
「次に行く場所は何処だろう……って」
「……それで、何か分かったの?」
 彼女の問いかけに、ようやく振り向いたトラッドは、扉を開けながら首を縦に振った。
 部屋の中はナギサとラザが外へ行く前と殆ど変わっていない。
 唯一違うのは、椅子が1つ倒れていたという事だけで、きっとトラッドが慌てて出て行ったからだろうと容易に想像がつく。
 その事にどうやら彼も今気がついたらしく、何処か恥ずかしそうに椅子を起こして腰を下ろすと、側にあった袋の中から地図を取り出した。
「長い話になるから、とりあえず座ってもらってもいいか?」
「ああ」
 テーブルの上のカップを棚に置くと、トラッドは地図を広げながら2人にそう告げる。
 ナギサとラザはこくりと頷き、先ほどとは違う彼の様子に微笑みながら席へ着いた。
「まず……これまで手に入れたオーブは?」
「ジパングの紫とテドンの緑ね」
 唐突なトラッドの問いかけに、地図を凝視したままのナギサは間髪入れずに答える。
「じゃあ……今何処にあるのかが分かってるオーブは?」
「……そういう事か」
 続けられた質問にラザがハッとなって、真剣な表情で頷いている彼を見た。
「…………ランシールの青、ね?」
「ああ」
 同じく気づいたらしいナギサの言葉に、トラッドは返事をしながらアリアハンの西に位置する場所――――つまりランシールを指で示す。
 彼女がもし旅を続けるのなら、まだ何処にあるのかも分からないオーブを探すよりも、分かっている所へ向かうはずである。
「でも、リノは真っ直ぐ此処へは向かっていない」
「どういう事よ?」
 しかし、彼が自分の出した結論を否定した為、ナギサは眉を顰めて問い返した。
「ランシールへ行くには船が必要だろ? でも……リノは船の動かし方を知らないはずなんだ」
 トラッドはジパングへ向かう前に交わした彼女との会話を思い出す。
 あの時、リノは一日で船が動かせる事を疑問に思っていたが、もし彼女が船を操れるのなら、そんな質問はしなかったはずである。
「だから――――」
 彼が次に指を差した場所、それは以前黒胡椒を王様に届けたポルトガだった。
「ここなら船乗りが多く集まってるから、すぐに出発できる可能性も高い」
 世界で最も高い造船技術を誇る国という事を知らない方が珍しい。
 そう考えれば、リノの行動はこの上なく理に適っている。
「なるほど……そこから南下し、ランシールに向かったというわけか」
 自分の持つ知識を全て活かし、一切の無駄なく積み重ねられた彼の推測。
 ラザは感心しながらも問いかけるように呟く。
「……いや」
 だが、トラッドはまだ続きがあると言わんばかりに首を横に振った。
 予想外の反応でラザの顔に驚きの色が浮かぶ。
「違うの?」
 その一言に不意を突かれたのは彼だけではないようで、ナギサはわずかに身を乗り出して彼に尋ねた。
 するとトラッドは口を開かず眉間に皺を寄せ、地図を見渡した後でアリアハン、ノアニール、バハラタの順に指を上に置いていく。
「……まだ何かあるの?」
 答えが返ってこない事に苛立ちを隠せない彼女は、表情通りの口調で再び問いかけた。
「あ、いや……ここからは自信が無いんだけど……」
「何?」
「……多分、リノはテドンの近くを通ってないような気がする」
「え?」
 そこでトラッドは、ノアニールとバハラタからランシールへの道のりを指でなぞる。まるでどちらから向かうのが早いか図るように。
「俺だけかもしれないけど、自分にとって辛い事があった場所は避けるんじゃないか、って思って……」
「あっ……!」
 自然とナギサの脳裏に浮かんだのは、故郷であるムオルの風景。
 まだ賢者になるという約束を果たしていない彼女は、祖父と会うのを躊躇っていた事を思い出す。
「それにポルトガよりも、今指差した所からの方がより早くランシールに辿り着けるし……そうなったらリノが何処に行くのか誰も分からなくなる」
 リノがこの先も1人で旅を続けようとするのなら、決して追いつかれないようにと考えるだろう。
 しかし、今は他のオーブが何処にあるのかを彼女もまだ知らない。
 だからこそトラッドは、リノが急いでランシールへと向かい、世界各地で情報を集めてから次のオーブを目指すのではないかと推測した。
 アリアハンが一番の近道ではあるが、3人に気づかれる危険性を考慮するとその可能性は極めて低い。
「つまり……ランシールで会えなかったら……」
「次に会うのは難しい……」
「ああ。でも……」
 本来ならこうして話し合うほどの猶予も無く、すぐにでも目的の場所へ向かわなくてはならない。
 だが、誰もそれを口にしなかったのは、その為の手段を持っていないと気づいていたからである。
 その手段とは――――つい先ほど口にした船。
「2人ともランシールに行った事は?」
 トラッドは深刻な声でナギサとラザにそう尋ねるが、
「……ないわ」
「俺もだ」
 返ってきた答えは、悪い意味で予想通りのものであった。
「……キメラの翼も無理、か」
 何処かへ行く為のもう1つの方法であるキメラの翼は、頭の中に浮かんだ場所へ身体を運んでくれる魔法の道具だ。
 しかし、誰も行った事が無いのであれば当然意味が無い。
 リノの行き先が分かっていても、何も出来ないという焦りが、それぞれ違った形で3人の顔に滲み出す。
 そうして誰もが言葉を失い、無力感を伴った気まずい沈黙が流れ始めた時だった。

「ここが皆さんの泊まる部屋ですよー。今日は、ゆっくり休んで下さいね」

 扉の向こうから覚えのある元気な声が、大勢の人間の賑やかさに混じって聞こえてくる。
(まさか……!?)
 真っ先に反応したトラッドは再び椅子を倒しそうな勢いで立ち上がると、半ば走るようにして部屋の扉を開けるのだった。



「う……ん……?」
 横になってから2時間が過ぎた頃、ようやく眠りに就いていたリノは、予感めいた胸騒ぎに目を覚ます。
 彼女はトラッドの予測通り、ポルトガで船乗りを集めて出航の準備を整えた後、船が陸から離れるのを確認してから、キメラの翼でバハラタへと飛んでいた。
 本来、キメラの翼でその場所を知らない人間を運ぼうと思えば、同じ数の知っている人間が必要になる。
 今回集められた船乗りの殆どはバハラタを知っていたが、その中の1人が言うには舵に取り付けられた宝石はキメラの翼の力を増幅させる効果があるらしかった。
 つまり、目的地を知らない人間が少し多くても、この船があれば一緒に行動する事が可能らしい。
 とりあえずリノは、はっきりしない思考を正常に戻そうと、髪をくしゃくしゃしながら頭を振った時、扉が壊れそうな勢いで3度悲鳴を上げた。
「……どうぞ」
「失礼します!」
 怒っているようにも見える複雑な表情の彼女の声に扉を開けたのは、船乗りにしては細い身体つきの若い男。
 わずかに茶色がかった髪と瞳を持つ彼は、おそらく20半ばといった所だろうか。
 出来る限り、1人にして欲しいと言っておいたはずなのに、と思いながらリノは理由を尋ねようとしたが、
「モ、モンスターが……!」
 その言葉を口にする前に、若い船乗りは酷く青ざめた顔で搾り出すようにそう告げる。
 すると彼女は何か返事をする代わりに、部屋の隅に立て掛けてあった鋼の剣を手に取り、寝起きとは思えない速度で走り始めた。


 数分も経たない内に辿り着いた甲板では、大きな身体を持っている数人の船乗りが湾曲した剣を片手にモンスターと戦っている。
 だが、どうやら追い払い、攻撃を受け止めるのが精一杯のようで、とても倒せそうな気配は無い。
「うわっ……!?」
 その時――――船が一際大きく揺らいだ。
 リノの視界に入ってきたのは、モンスターと対峙する船乗りの身体が崩れ落ちる姿と、その隙を見逃さずにしとめようとするマーマンの右腕。
(危ない……!)
 間に合うかどうかも分からない、庇えば自分の身に危険が及ぶかもしれないという距離。
 それでも彼女は一切の迷いを見せず、剣を鞘より抜き去りながら走り、
「……くっ……!」
 遠慮なく振り下ろされたマーマンの右腕を、絶妙な力加減で受け流す。
 更にリノは虚を突かれて動きを止めたマーマンの隙を見逃す事無く、一旦身を沈めてから白刃を横一閃に走らせ、瞬時に絶命させた。
「あ……あ……」
 目の前で起きた刹那の出来事に、倒れた船乗りが恐怖に囚われた声を洩らす。
 それに対して彼女は細めた横目で安否を確認すると、まだ応戦している船乗りたちを助けようと身を躍らせた。
 必死で戦い、また見守る大勢の船乗りの前で、次々と繰り出される剣戟。
 時に受け止め、流し、モンスターを屠っていくその剣は、不思議と戦闘の血生臭さを感じさせなかった。
 ある種の芸術と呼んでも差し支えが無いほどの美しさと、誰かを守るという明確な意思を伴った活きた剣技。
 船乗りたちは、一生に一度見れるかどうかの神秘的な風景に心を奪われていたのである。
「う……あああああああ……!」
 そんな視線に気づかないリノの耳に、悲痛な叫び声が突き刺さった。
 彼女は向かい合っていたヘルコンドルを一撃で斬り伏せると、弾かれたように声の方へ振り返る。
「……っ!」
 そこにあったのは、ガニラスが鈍く光る右の鋏で座り込んだ船乗りの命を奪おうとしている光景。
 今から駆けつけたのでは間に合わない、と理解したリノは瞬きする程度の時間で呪文の構成を練り、
「メラ!」
 剣を持っていない左の掌から小さな火の玉を放った。
 中空に鮮やかな軌跡を残しながら弧を描いて飛んでいく炎は、ガニラスの右目に見事直撃する。
 しかし、スライムならともかく、海を根城にするモンスターがその程度で死ぬわけがない。
 生まれるのはほんの少しの隙だけだったが、すでに駆け出していたリノにはそれで十分だった。
 瞬間、ガニラスの口の中を真っ直ぐ向けられていた剣が醜い音を撒き散らしながら貫いていく。
 いかに硬い殻で身体が覆われていようとも、中身なら何も関係無い。
 それを証明するかのように、ガニラスは泡を吹きながらもがいた後、ぴくりとも動かなくなった。
「あ……」
 しばしの静寂の後、口を開いたのは――――たった今、命を救われた船乗り。
 その瞳には、呪文を使った事で血のような色に染まったリノの瞳が映し出されていた。
「ば……化け……」
 現実へ返ってきた周囲も、リノに聞こえないよう小さな声で何かを囁き合う。
 だが、彼女には耳に届かなくても、何と言っているのかが聞こえてくるような気がしていた。
 幼い頃からずっと言われ続けていたあの言葉を紡ぐ時、唇がどう動くのかを嫌というほど思い知らせているのだから。
(…………今更、言われなくても)
 分かっている、という誰にも聞こえない胸中の呟きすらも打ち消すリノ。
 それから決して慣れる事の無い胸の痛みを堪えながら、部屋へ戻ろうとした時だった。
 足を向けた先にいる1人の船乗りが怪我をしている事に気付く。
「…………」
 リノは少しだけ方向を変え、流れ落ちる血と似た色の瞳で彼を見据えると、
「……ベホイミ」
 わずかに返り血が残った唇から言葉を紡ぎ、差し出した掌から癒しの光を生み出した。
「え……?」
 呆然となる船乗りの意思に構わず、痛々しい傷口はみるみる塞がっていく。
 そして光が消えた後、彼女は具合を尋ねようとしたが、
(……そんな資格……私にあるのか?)
 と胸中で呟いた後、これ以上恐怖を感じさせる事もない、とすぐに考え直し、無言でその場を後にした。
 残された船乗りたちは何かを話すでもなく、リノが入っていった扉をじっと見つめるだけであった。



「……あ」
 一方、慌てて扉を開けたトラッドの前に立っていたのは、
「…………師匠?」
 白いバンダナを頭に巻き、動きやすく作られたジパング風の服に身を包んだヤヨイだった。
「やっぱり……聞き覚えのある声だったから、もしかしてと思って……」
「そうだったんですか。お久しぶりです!」
 彼女は嬉しそうにそう言った後、部屋の奥から歩いてくるナギサとラザを見つけてお辞儀をする。
「町の方はどう?」
「はい、とっても順調です。最近、ようやく新しい人が住み始めましたし……今はお店もあるんですよ!」
 久しぶりの再会は、立ち込めていた暗雲の隙間から差し込む一筋の光のようであった。
 当然、忘れていたわけではなかったが、
「あれ? そういえばリノさんはどうしたんですか?」
 不思議そうな顔で尋ねるヤヨイの言葉に、三者三様の陰りが浮かぶ。
「……ヤヨイ、今時間はあるか?」
 しばらく誰からも返事が無かった事に、きょとんとしていた彼女だったが、
「え? あ、はい、大丈夫ですけど……?」
 トラッドの押し殺すような声に、若干戸惑いながらも問い返すように返事をした。
「それじゃあ……とりあえず中に入ってもらってもいいか?」
 これまでにあまり聞いた事が無い類の彼の声。
 ヤヨイはリノと何か関係があって、大事な話なのだと理解すると、真剣な表情で頷いてから部屋に足を踏み入れた。


「リノさん、が……?」
「……ああ」
 トラッドは全員が席に着いたのを確認してから、ヤヨイにこれまでの経緯を話し始めた。
 テドンでの出来事。リノの身体の事。そして――――今、この場に彼女がいない理由を。
「そんな……」
 実際に見たわけではないのだから、実感が沸かないのかもしれない。
 更に言うと、あまりに多くの出来事が起こり過ぎてしまったせいで、すぐに整理が出来ないようでもあった。
 それでもリノがいなくなったという事実に、彼女は心配そうな眼差しのまま、呆然と呟く。
「行き先は分かってるんですか?」
 重く圧し掛かる沈黙の中、ヤヨイは再び言葉を重ねた。
 その質問に、トラッドは先ほど自分が話したばかりの推測を思い出しながら口を開く。
「……大体は。でも、そこに行く為の手段が――――」
 だが、絶望的な今の状況を口に出しかけた瞬間、不意に声は途切れた。何の前触れも無く。
「……トラッド?」
「…………師匠?」
 ナギサとヤヨイは異なった呼び方で彼を呼ぶが、すぐに返事は返ってこない。
「トラッド、どうかし――――」
 続いてラザが肩を持って揺さぶろうとした直後、トラッドは顔を上げてヤヨイにこう尋ねた。
「ヤヨイ」
「は、はい?」
「……アリアハンに来たのは、今日が初めてか?」
「……へ? あ、そうです、けど……?」
 彼の一言にナギサと伸ばしかけた手をいつの間にか膝の上に戻していたラザがハッとなる。

「という事は……船で……?」

 問いかけの意味とトラッドの求めている答えが分からないまま、彼女は曖昧に首を縦に振った。
 すると、まるでその仕草が合図だったかのように、彼は突然ヤヨイの両手を少し強く握り締める。
「師匠……!?」
「…………頼む」
「え?」
 わずかに頭を下げたトラッドの表情は――――今にも涙が零れ落ちそうだった。
「無理な事だっていうのは分かってるけど……けど……!」
 この場にいる誰もが悲しくなる、それぐらい彼の声は震えている。
 3人は何かを言う事も忘れ、ただトラッドの言葉を待った。

「ランシールに……リノの所に連れて行って欲しい……!」

「ランシール、ですか……?」
 ヤヨイがそう繰り返すと、彼はこくりと頷いて、自分の考えと――――想いを声にする。
「必ず会える、とは限らない……でも、少しでも可能性があるのなら、もう一度リノに会えたら……一緒に旅がしたい……! 今度こそ……力になりたい……」
「……師匠……」
 すると彼女は柔らかく手を解いて、椅子から立ち上がった。
「……私だってリノさんの事、心配なんですよ?」
「え……?」
「それに、私は師匠とリノさんが一緒にいるのを見るのが好きなんです」
 静かな部屋にきぃと木が軋む音が響いたと同時に扉が開かれる。
 いつの間にかそこまで歩いていたヤヨイは、背中を向けたながらも強い意志を秘めた声で呟いた。
「だから……私からもお願いします。私を……ランシールに連れて行って下さい」
「ヤヨイ……」
「早速、船乗りさんたちにお願いしてきますね!」
 そして慌しく隣の部屋に駆け込んでいく。
 時間が無い事も理解しているのだろうが、きっとそれよりも心配する気持ちの方が大きいに違いない、とナギサはふと思った。


 数分後――――ヤヨイは結果を聞くまでもないぐらい、眩しい笑顔と共に部屋へ戻ってきたのであった。
 


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