第94.5話 「幕間T 〜 形のない有り様の、とあるカタチの在り方」


 Q、A。
 Q、A、Q、A――Q&A。

Q:覚えてる?

 問い紡がれる、疑問。
 それは、

Q:覚えてる?

 繰り返される、自問。

A:覚えてる。

 呟き紡がれる、回答。
 それは、

A:覚えてる。

 繰り返される、自答。

Q:本当に、覚えてる?

 だが、反復は止まらない。
 内在し、点在していながらも、外在には至らないこの質問は、ただ病むだけに留まり、未だ止む気配を見せない。
 まるで別の回答を期待するように。
 まるで別の解答を確信するように。

A:本当に、覚えてる。

Q:本当に? 本当に覚えてる?
A:…………

 ゆえに澱みは生じる。

Q:本当に、覚えてる?
A:…………覚えてる。

 ゆえに矛盾が発生する。

A:……覚えてる。
A:覚えてる……。

 例え、言葉は違えど、

A:……違う。
A:……違う!

 本質的には一つの意味しか持たないはずの、問い。

A:嘘、じゃない。

 それに対して、過剰に。

A:嘘じゃ、ない。

 また、異常に。

A:覚えてる……嘘なんか、吐いて、ない。

 そして、必要以上に複雑な複数の答えを返してしまう。

A:私は、本当に、覚えてる……!!

 そんな矛盾が、不吉に花を咲かせては、不穏に枯れ、不快に朽ちてゆく。
 だが、けして嘘ではなかった。
 現に覚えている。

 自分以外の誰かに深く触れた感触も。
 自分以外の誰かが深く触れた感触も。
 融け合った温もりも。
 解け合った温もりも。
 付随する痛みも。
 追随する悦びも。

 一生に一度しか味わう事のない、喪失感も。

 そう、確かに覚えている。

 全ては紛れもない事実。
 疑いようもない、現実。
 ありとあらゆる何もかもが、限りなく真実に寄り添っている。

 それを理解したから、だろうか。
 もう一人の自分は、自問を変質させる。

Q:……じゃあ、知ってる?
A:…………え?

 一瞬、呆然。
 瞬間の自失。
 何故ならそれは、予期せぬ詰問だったからだ。

Q:知らないの?

 しかし、繰り返される。
 もう独りの自分は、問いかけを止めない。

Q:……識らないの?

 止めて、くれない。
 心が健やかな時や豊かなる時は、何も言ってこないくせに。
 心が病める時や貧しい時に限って、ここぞとばかりに攻め立て、ことごとく責め立ててくる。

Q:本当に、しらないの?

 だが、彼女は知らない。

A:…………

 どれだけ繰り返されようとも、知らない。

Q:どうして?
A:……知らない。
Q:どうして? ねぇ、どうして?
A:知らない! そんなこと、私は、知らない……

 例え覚えていても、知らない事は答えようがない。
 それゆえに、彼女は。
 いよいよ堪えられなくなった彼女は。


Q:アナタハドウシテシラナイノ?


 その言葉を最期に。
 無自覚に攪拌させていた意識と無意識を、半ば狂的に切り離した。



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