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「うー・・・」 澄みきった朝の空。とある部屋から聞こえるのは、あまりに似つかわしくない呻き声。 白いベッドに広がる金色の髪の毛は、窓から差し込む朝日でキラキラと輝いている。 「ナギサ、大丈夫か・・・?」 いつも早い彼女が、いつまで待っても食堂へ下りてこない。それが気になってリノは部屋を訪れていた。 「ごめん・・・無理」 「病気?」 「・・・・似たような感じかも」 会話は普通である。が、何か隠しているような空気があった。その時、ドアが2回ノックされる。 「入るぞー・・・って、どうかしたのか?」 返事を待たず部屋へと足を踏み入れたのは、戻ってこないリノを心配していたトラッドとヤヨイ。 「頭が痛いらしいけど・・・」 リノは困惑した表情で、今分かっている事を簡潔に話す。 「・・・もしかして」 その時、ヤヨイが口元に手を当てて、軽く目を閉じてそう呟いた。 「昨日、お酒飲んだからじゃないですか?」 「・・・・・・」 返事はない。どうやらかなり痛い所を突かれたらしい。 「でも、ナギサって酒には強かったんじゃ?」 結構な量を飲むのはこれまでも見かけている。しかし、二日酔いというのは初めてだ。 「あの・・・勝負を吹っかけられたんですけど」 「ナギサさん、樽一杯分ぐらい一気に飲んじゃって・・・」 「・・・・・・え゛」 全く罪の無いヤヨイが申し訳無さそうに言うのだが、リノとトラッドはただただ呆気に取られている。 「だって・・・・・・・・・負けたくなかったし」 「・・・限度があるだろ」 彼にはもはや怒る気力も無い。 「出発は中止にしよう」 しばらくしてから我に返ったのか、リノが極めて冷静にそう言うと、周囲の誰からも反対の声は上がらなかった。 「・・・・ごめん」 思えば彼女が素直に謝るのは珍しい、とトラッドは複雑な気持ちに苦笑いが出る。 「まぁ、ここの所慌しかったし、たまには休むのもいいか」 「そうですね」 「・・・・・・・本当にごめん」 目に見えるぐらい落ち込んでいるのが分かったので、トラッドとヤヨイはそう言ったのだが効果は無いようだ。 「ナギサ・・・その、気にしなくていいから・・・」 「リノちゃん・・・」 何気ない彼女の一言。いつものように不器用な話し方だが、だからこそ余計に気持ちの感じられる言葉だった。 「ほら、リノもそう言ってるだろ?」 「そうですよ! だから本当にゆっくり眠っててくださいね」 ナギサは小さく、うん、とベッドの中から答えを返す。ようやく安心した3人は部屋を後にするのであった。 「それじゃあ、私が看病しますね」 部屋を出てすぐにヤヨイはそう言った。 「疲れたら言うんだぞ?」 「いえ、大丈夫です。折角ですし、師匠とリノさんもゆっくり休んでくださいね?」 健気な弟子だと、トラッドは感心する。 「じゃあ・・・お言葉に甘えさせてもらおうかな。な、リノ?」 余りに眩しい笑顔なので断れそうに無い、と思った彼は素直にそう告げる。 急に話を振られた彼女も同じように感じたようで小さく頷いて見せた。 それから2人は一度視線を交わすと、自分たちの部屋へと入るのであった。 「・・・リノ、何かしたい事ないか?」 「別に・・・」 1時間が過ぎた。彼女は部屋の隅で黙々と鋼の剣を手入れしている。 時折、トラッドの顔を盗み見るのだが、身体が少しでも動くとすぐに顔を逸らしてしまう。 (・・・何を話せばいいんだろ) しかし、それは彼も同じであった。 道中や食事の時など全員揃っている時は普通だが、いざ2人になると案外静かなのである。 「・・・散歩に行って来る」 更に10分ほど過ぎた後、このいつもと違う空気に耐えれなくなったのかリノはそう口にした。 「あ、ああ」 同じ心境である彼は何とか返事をしたのだが、すぐに何かを思いついたような顔で言葉を続ける。 「えっと・・・俺も一緒に行っていいか?」 「・・・・・・」 何も答えない――――代わりに首を小さく縦に振るリノ。それを見て、トラッドはわずかに笑顔を取り戻す。 だが、依然として奇妙な緊張感に身を包まれた2人は、ぎこちない歩き方で部屋を後にした。 もしかしたら遅くなるかも、という可能性を考えてトラッドは隣の部屋にいるヤヨイに外出する事を告げに行く。 「分かりました。ゆっくりしてきて下さいね」 相変わらずにこやかにそう言う彼女だが、言葉に何処か引っ掛かる所があった。 「・・・ああ、そうする」 とは言うものの、性格上どうしても裏があると思えない彼は曖昧な顔で頷いて部屋を出る。 外で待っていたリノと彼の2人分の足音は徐々に遠ざかっていった。 「悔しいわね・・・」 突然、ベッドから恨めしげな声がした。激しい二日酔いに悩まされているナギサである。 「遊びに行けなかった事がですか?」 すぐに聞き返すヤヨイだが、何故か彼女の口調も楽しげだった。 「・・・分かってるでしょ?」 「やっぱりそうですか?」 どうやら看病を買って出たのは、彼女なりの気遣いのようだった。 「でも、師匠って鈍いですから何もないと思いますけど?」 いつもは一途に彼を慕っているヤヨイも、こういう時はさらりと酷い事を言う。 「そうねぇ・・・きっとデートだっていうのにも気づいてないでしょうし・・・」 「・・・お互い苦労しますね」 ヤヨイの説得力のある一言に、ほんとね、と彼女は笑みを浮かべて返事をするのだった。 太陽はそろそろ一日の中で最も高い位置へと上がる。昼食の準備の為か、外は慌しい人が多かった。 「・・・そういえば何も食べてなかったな」 わずかに緊張が解け、ふと思い出すと急に空腹感が襲い掛かってくる。 「どこかで食べるか?」 それはリノも同じのようで、珍しく反応が早かった。 「そう、だな・・・・・・ん」 食事が出来る所はないかと辺りに視線を巡らせた時だった。彼のトパーズ色の瞳にある物が映る。 「どうかしたのか?」 「・・・ちょっと待っててくれないか?」 彼女が首を縦に振るのを確認すると、トラッドは真っ先にある方向へ足を向けた。 その先は――――キメラの翼の看板がある道具屋。 (昨日、買い忘れでもあったのかな) いつもきっちりしているのに、と不思議に思いながら大人しく待っていると、彼はすぐに戻ってきた。 それほど時間は経っていないのだが、何故か彼は走って帰ってきたので息が切れている。 「お待たせ・・・後、食事なんだけどその辺りで何か買って行かないか?」 「え? 別にいいけど・・・」 断る理由は無かったので、リノは戸惑いながらも頷いた。 そうしてしばらく歩く内に手頃なサンドイッチの店を見つけた2人は、そこで少し多めに買い物をする。 「さて・・・と」 食べる場所がすでに決まっているのか、彼の足取りには迷いがく、彼女は素直に後ろへついていった。 そして辿り着いたのは、町の真ん中にある噴水の広場。近くには座れる所もある。 「ここで食べるのか?」 「いや、ちょっと行きたい所があるんだけど・・・付き合ってもらってもいいか?」 今までは何処へ向かおうとしていたのだろうか、そう考えながらリノはとりあえず頷いた。 するとトラッドは、先ほど袋からキメラの翼を取り出す。 「さっき、看板見て思いついたんだ」 そう言いながら、青い宝石に掌を当てると彼の脳裏に浮かぶ風景に答えて輝きだした。 「リノ」 彼は左手を差し出して彼女の右手を握る。 急に熱くなる自分の手に違和感を感じながらも、自然と握り返していた。 だが、その感触は一瞬の事で、2人の姿は遥か上空へと舞い上がるのであった。 後編へ 目次へ
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